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Machina
takasho
***
 暗闇は延々と続いていた。
 下へ下へと伸びる螺旋階段はその果てが見えず、たちの悪い抽象絵画のようだったが、阿鼻叫喚の渦巻くこの場所はまぎれもなく現実世界だった。
 数え切れないほどの人々が我先にと階段を駆け下りていくものの、その鉄製の手すりはほぼすべて壊れてしまっているがために、中央の暗い闇に落ちていく運の悪い人間があとを絶たない。
 階段は狭く、せいぜい二人が通るのがやっとのところを無数の人間がひしめき合い、ある者は他者を押しのけてでも前へ進み、またある者は銃を抜いて殺し合いを始めた。
 まさに生き地獄。
 どこにも救いはなく、あるのは絶望ばかり。尊いはずの命があまりにもあっけなく失われ、暗い闇の底へと消えていく。
 青い目のジェイルと赤い爪のヤリナの二人は、そんな中を下へ向かって急いでいた。
二人とも戦闘用の強化服を着込み、手にはすでにカスタマイズされたレーザー・タイプの銃がしっかと握られていた。
「ヤリナ、大丈夫か?」
「うん」
 鳶色の髪がすでに煤やほこりで汚れてしまっているヤリナを、灰色の髪をしたジェイルがさりげなく気遣った。
「それよりジェイル、前」
 静かに言われてその方向を見やる。
 暗がりの中でも光学探知機能のついた目が自動で光量を補正し、正確な視界を得る。
 それにより、状況をはっきりと確認できた。
 前方では、複数の男たちが激しい戦闘をくり返していたが、原因はよくわからない。
 ――やるか。
 ジェイルは迷わず決断した。
 最も手前にいた男の人工脳部分に無線で強制介入し、記憶(メモリ)をあさってみる。
『さっさと行け、オラァ!』
『行きたくても行けねえんだよ、ばか野郎ッ!』
 くだらない、という言葉が思わずもれそうになる。
 きっかけはひどく些細なことだったが、それが凄絶な殺し合いにまで発展してしまうとは。
 人類の殺人のきっかけは、太古の昔より大半がこんなものだと言われているが、それが自分たち人間の限界なのだろうか。
 あまりにもくだらなく、情けない。
よかった!
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